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東京地方裁判所 平成3年(ワ)2824号 判決 1992年6月25日

第一、第二事件原告、第三事件被告(以下「原告」という。) 内堀多喜夫

右訴訟代理人弁護士 中田孝

榊原輝

根岸攻

第一、第二事件被告、第三事件原告(以下「被告フロンティア」という。) フロンティア商事株式会社

右代表者代表取締役 炭屋数己

第二事件被告(以下「被告弘信」という。) 弘信商事株式会社

右代表者代表取締役 工藤寛

右両名訴訟代理人弁護士 野島親邦

主文

一  原告の被告フロンティアに対する請求及び被告弘信に対する請求をいずれも棄却する。

二  原告は、被告フロンティアに対し、金二六〇五万一六五四円及びこれに対する平成二年五月一一日から支払済みまで年三割の割合による金員を支払え。

三  第一事件について当裁判所が平成二年一二月八日にした平成二年(モ)第六六六一号強制執行停止決定はこれを取り消す。

四  訴訟費用は原告の負担とする。

五  この判決は、第二、第三項に限り、仮に執行することができる。

理由

一  第一事件、第二事件とも請求原因事実は当事者間に争いがない。

二  第一事件の抗弁事実である本件貸金、第二事件の抗弁事実である各担保契約はいずれも同一機会に締結されたものであるから、これらについて一括して判断する。

1  右事実のうち、石田正二及び渋谷良則が平成二年九月一一日、東京法務局所属公証人海治立憲の役場に出頭して本件公正証書の作成嘱託をなしたことは、当事者間に争いがない。

2  一及び二1記載の当事者間に争いがない事実に、いずれも成立に争いのない≪証拠省略≫、いずれも原告の作成部分については、その署名、押印については原告の署名、押印であることが争いがないから真正に成立したものと認められ、その余の部分については、証人海野道雄の証言により真正に成立したものと認められる≪証拠省略≫、その署名、押印については原告の署名、押印であることが争いがないから真正に成立したものと認められ、その余の部分については、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる≪証拠省略≫、証人海野道雄の証言により真正に成立したものと認められる≪証拠省略≫、いずれも原告の作成部分については、その署名、押印については原告の署名、押印であることが争いがないから真正に成立したものと認められ、官署作成部分については成立に争いのなく、その余の部分については、証人海野道雄の証言により真正に成立したものと認められる≪証拠省略≫、官署作成部分については成立に争いのなく、その余の部分については、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる≪証拠省略≫、原告の作成部分については、その署名、押印については原告の署名、押印であることが争いがないから真正に成立したものと認められ、その余の部分については、証人岩田宏隆の証言により真正に成立したものと認められる≪証拠省略≫、証人岩田宏隆の証言により真正に成立したものと認められる≪証拠省略≫、原告の作成部分については、その署名、押印については原告の署名、押印であることが争いがないから真正に成立したものと認められ、その余の部分については、弁論の全趣旨により成立したものと認められる≪証拠省略≫、証人海野道雄及び同岩田宏隆の各証言並びに原告本人尋問の結果(但し、後記措信しがたい部分を除く。)を総合すれば、

(一)  原告は、訴外会社の被告フロンティアからの借入の保証人になるため、訴外会社の代表者天野訓甫(以下「天野」という。)、被告フロンティアの従業員である海野道雄(以下「海野」という。)及び司法書士である平田文延(以下「平田司法書士」という。)の従業員である岩田宏隆(以下「岩田」という。)と、平成二年三月二八日、原告の当時の勤務先であった東邦大学の大橋病院前のタイシンホテル内のレストランで会ったこと

(二)  海野は、同所において、原告に対し、署名ないしは押印を求める書面の趣旨等を説明し(もっとも、根抵当権の一部譲渡に関しては十分な説明はしなかった。)、その一部の書面≪証拠省略≫については、原告の了解のもと、原告に代わって署名、押印し、また、岩田も平田司法書士夫婦の作成の保証書による登記申請を行う関係で、原告が内堀多喜夫本人であることの確認と平田司法書士に差し入れる念書≪証拠省略≫の説明をしたこと

(三)  原告は、海野らの説明を受けて、以下の書類に署名、押印し、または海野に署名、押印を代行せしめたこと

(1) 被告フロンティアと訴外会社間の第一事件3(一)記載の内容の借用証書(≪証拠省略≫、但し、利息の支払時期については記載がない。)に連帯保証人として署名、押印したこと

(2) 被告フロンティア宛の連帯根保証約定書≪証拠省略≫に天野とともに連帯保証人として署名、押印したこと、そして、同書面の裏面には根保証の範囲として、金額として金四五〇〇万円、保証期間として平成三年三月二七日との記載があるほか、物件担保として、原告所有の本件各不動産の記載があること

(3) 被告フロンティア宛の取引約定書≪証拠省略≫に天野とともに連帯保証人として署名、押印したこと

(4) 強制執行認諾文言を含む債権元本金額を二七〇〇万円とする債務弁済契約公正証書の作成にかかる公正証書作成嘱託委任状≪証拠省略≫に天野とともに連帯保証人として署名、押印したこと、そして、同書面には、債務者及び連帯保証人の代理人として渋谷良則に公正証書作成嘱託に関する一切の権限を委任する旨の記載があり、利息年一五パーセントの支払方法として「平成二年五月一〇日までは支払済、以後毎月一〇日限り翌月分を支払う」との記載があること

(5) 第二事件3(一)記載の内容の根抵当権設定契約書≪証拠省略≫に根抵当権設定者兼連帯保証人として署名、押印したこと、右根抵当権設定契約書の第七条には第二事件3(二)記載の内容の停止条件付賃借権の設定についての約定の記載があること

(6) 原告は、被告弘信宛の第二事件3(三)記載の内容の根抵当権一部譲渡契約証書≪証拠省略≫に根抵当権設定者として署名、押印したが、右書面には、根抵当権譲渡人として被告フロンティアの記名、押印があり、また、第三債務者として訴外会社の記名、押印があること、そして、右に関連して、根抵当権一部譲渡承諾書≪証拠省略≫に署名、押印し、右根抵当権一部譲渡契約証書記載のとおりの登記をするための平田司法書士宛の委任状≪証拠省略≫に署名、押印したこと

(7) 平田司法書士宛の根抵当権設定登記のための委任状≪証拠省略≫に、登記権利者である被告フロンティアとともに署名、押印したこと(被告フロンティアは記名、押印)

(8) 平田司法書士夫婦の作成の保証書による登記申請を行う関係で、これにより万一問題が生じた際には平田司法書士夫婦には迷惑をかけない旨を記載した念書≪証拠省略≫に署名、押印したこと

(9) 株式会社明興のために設定された根抵当権設定仮登記及び条件付賃借権仮登記の各抹消、被告フロンティアのために設定された根抵当権設定仮登記及び条件付賃借権仮登記の各抹消、被告フロンティアのために設定された根抵当権設定仮登記の条抹消のための平田司法書士への委任状≪証拠省略≫に海野をして、署名、押印せしめたこと(右の原告の署名、押印については、原告の利益になる登記であることから、自署を求めず、海野が原告の承諾のもとに代行した。なお、海野は、≪証拠省略≫について、署名者については知らない旨供述するが(第一〇回口頭弁論調書中の証人海野道雄の証人調書第八七項)、証人岩田宏隆の証言に照らして措信しがたい。)

(四)  被告らは、(三)記載の各書類等により第二事件1(三)記載の各登記をなしたこと

(五)  さらに、訴外会社の信用状態が悪化したため、被告フロンティアにおいては、(三)(4)等の書類を用いて、公正証書を作成することとし、公正証書作成嘱託のための被告フロンティアの代理人である石田正二と、被告フロンティアが選任した原告のための右公正証書作成嘱託の代理人の渋谷良則が平成二年九月一一日、東京法務局所属公証人海治立憲の役場に出頭して、本件公正証書の作成嘱託をなし、本件公正証書が作成されたこと

が認められる。

ところで、原告は、訴外会社のために金二七〇〇万円の連帯保証人になったこと等を否認する内容の供述をするが(原告本人尋問の結果)、原告本人尋問の結果中には、平田司法書士夫婦宛の念書≪証拠省略≫の作成経緯が、≪証拠省略≫の体裁、証人岩田宏隆の証言に照らして措信しがたい等不自然な面が少なくなく、前記認定に反する部分は措信しがたいというべきである。

3  2記載の認定事実によれば、第一、第二事件の各抗弁事実が認められる。

三  第一、第二事件の再抗弁について

1  再抗弁(一)錯誤無効について

原告本人尋問の結果には、再抗弁(一)に沿う内容の供述が存するが、原告本人尋問の結果に措信しがたい面があることは前記のとおりであるうえ、また、再抗弁(一)に沿う右供述部分は≪証拠省略≫に照らして採用しがたく、他に再抗弁(一)を認めるに足りる証拠はないから、再抗弁(一)錯誤無効の主張は理由がない。

2  再抗弁(二)詐欺による取消について

原告が被告フロンティアに対して連帯保証する金員が九〇〇万円であると誤信していたと認めるに足りる証拠はないから、その余の点について判断するまでもなく、再抗弁(二)詐欺による取消の主張は理由がない。

3  再抗弁(三)強行法規違反ないし公序良俗違反による無効について

(一)  被告フロンティアが貸金業者であることは、当事者間に争いがない。

(二)  貸金業法は、その第一条にあるように、「貸金業を営む者について登録制度を実施し、その事業に対し必要な規制を行うとともに、貸金業者の組織する団体の適正な活動を促進することにより、その業務の適正な運営を確保し、もって、資金需要者等の保護を図ることを目的とする」ために制定された法であり、原告が指摘するように、同法一三条においては、過剰貸付を禁止し、同法一四条においては、貸金業者の営業所及び事務所において貸付条件を掲示せしめ、同法一七条二項においては、貸金業者が保証契約を締結した際には、遅滞なく同条一項記載の諸事項を記入した書面を交付しなければならないと定め、資金需要者等の保護を図っている。

(三)  貸金業法においては、貸金業者が、貸金業法の諸規定に反した場合の罰則を設け、その遵守を促進するほか、同法四三条は、貸金業者が同条所定の要件を遵守したときに限り、利息制限法の定める制限利息を超えて利息を収受することを許容することにより、同法の禁止条項の遵守を促進しているが、同法に違反した民事上の行為がすべて直ちに無効であるとか、同法違反のゆえに直ちに公序良俗に反して無効であると解するのは相当でなく(例えば、同法一七条に反して同条一項記載の諸事項を記入した書面を交付しなかった場合、貸金業者が同法四三条の保護を受けないことは当然としても、その民事上の行為までも、このことのみをもって直ちに無効とするのは相当でない。)、同法の規定の趣旨、その違反の程度等に照らして検討する必要があるというべきである。

(四)  そして、本件貸金の借用証書である乙第一号証には、その末尾に「本借用証書、写し当事者全員各一通交付を受け、正に受領いたしました。」との記載があり、その横に受領者が押印すべきスペースが存するにもかかわらず、乙第一号証には、原告はもちろん、訴外会社や天野の押印も存しないから、乙第一号証の写は原告らに交付されていないと推認することができる(これを原告に交付したとの証人海野道雄の証言は直ちには採用できない。)。したがって、被告フロンティアは、貸金業法四三条の規定の適用を受けることはできず、利息制限法の制限利息を超えて利息を収受することは許されないというべきであるけれども、被告フロンティアの従業員である海野が乙第一号証に原告が署名、押印する際に、貸付の内容等について、原告に説明を加えたことは先に認定したとおりであるから、乙第一号証の写が原告らに交付されていないことをもって、本件貸金を無効とすることは相当でない。

(五)  次に貸金業法が、その一四条において、貸金業者の営業所及び事務所において貸付条件を掲示せしめる規定を設け、貸付条件を周知せしめ、もって、資金需要者等を保護しようとしていることは明らかであるが、原告が主張するように、このことから直ちに貸金業者の行う取引は、原則として貸金業者の営業所または事務所において行うべきことを要請しているとまでは認めがたく、また、証人海野道雄の証言によれば、本件貸金にかかる取引が原告の当時の勤務先であった東邦大学の大橋病院前のタイシンホテル内のレストランで行われたのは、原告の都合を配慮してのことであると認められ、また、被告フロンティアの従業員である海野が本件貸金にかかる取引に当たり、貸付の内容等について、原告に説明を加えたことは先に認定したとおりであるから、本件貸金にかかる取引が貸金業者である被告フロンティアの営業所ないしは事務所で行われなかったことをもって、本件貸金を無効とすることは相当でない。

(六)  さらに、過剰貸付の禁止に反するとの主張についても、訴外会社や天野の資力が本件全証拠からしても明らかでないうえ、本件貸付は、≪証拠省略≫、証人海野道雄の証言によると、被告フロンティアにおいて平成二年三月当時六〇〇〇万円の評価をしていたと認められる(第九回口頭弁論期日における証人海野道雄の証人調書二四、二五項)本件各不動産に極度額四五〇〇万円の根抵当権を設定しての貸付であったうえ、人的担保も原告のほか、天野も連帯保証人になっていることに照らせば、本件全証拠によっても、本件貸金が過剰貸付の禁止に反するとは認められない。

(七)  そして、本件全証拠から認められる本件貸付の経緯に照らしても、他に本件貸付が強行法規違反ないし公序良俗違反により無効であるとは認められない。

(八)  よって、再抗弁(三)は理由がない。

四  以上の次第であるから、原告の被告らに対する第一、第二事件にかかる請求はいずれも理由がない。

五  第三事件請求原因について

1  二2記載の認定事実に、前掲≪証拠省略≫、証人海野道雄及び同岩田宏隆の各証言を総合すれば、第三事件請求原因(一)及び(二)の事実が認められる。

2  いずれも証人海野道雄の証言により真正に成立したものと認められる≪証拠省略≫、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる≪証拠省略≫、いずれも原告の作成部分については、その署名、押印については原告の署名、押印であることが争いがないから真正に成立したものと認められ、その余の部分については、証人海野道雄の証言により真正に成立したものと認められる≪証拠省略≫並びに証人海野道雄の証言によると、第三事件請求原因(三)(1)ないし(10)、(11)のうち現実に交付された金額を除くその余の事実が認められる。

なお、前掲≪証拠省略≫によると、旧貸付⑪の際には、天引利息金四一万〇三〇一円の外に印紙代として金三〇〇〇円が控除され、現実に交付された金額は金三五八万六六九九円であると認められる(もっとも、旧貸付⑪は本件貸金の弁済充当と関連性を有しないので、結局、結論を左右しない。)。

3  証人海野道雄の証言によると、第三事件請求原因(四)(1)の事実が認められ、また、五1で認定したとおり、本件貸金に際しては、天引利息等として合計金九一万九二七七円が控除されている。こうした事実を前提に本件貸金について、利息制限法を考慮すると、別紙計算書≪省略≫のとおり、平成二年三月二八日時点での本件貸金の残存元金は、金二六〇五万一六五四円となる。

4  証人海野道雄の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる≪証拠省略≫によると、第三事件請求原因(五)の事実が認められる。

六  第三事件抗弁が理由がないことは、三で判断したとおりである。

七  結論

以上の次第であるから、原告の被告らに対する第一、第二事件にかかる請求はいずれも理由がないから、いずれもこれらを棄却し、被告フロンティアの原告に対する第三事件にかかる請求は理由があるから認容し、強制執行停止決定の取消及びこれに対する仮執行宣言について民事執行法三七条を適用し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を、被告フロンティアの原告に対する第三事件にかかる請求に対する仮執行宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 深見敏正)

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